火曜日の思索メモ

思ったこと、考えたことの記録です。

福田村事件追悼式典

99年前の9月6日に起こった福田村事件の犠牲者の追悼式典が行われたというニュースを流れていまして。

www3.nhk.or.jp

 

当時と同じように不安を抱えている人が多い今だから、あえてこの式典のニュースを流したのかな?

 

これ、関東大震災後の混乱で「朝鮮人が井戸に毒を撒いた」等の不安を煽るデマが飛び交っていた頃に起きた事件で。

震災後、不安を煽るデマが飛び交っていたことから、各地で住人達が自警団を結成して自分達のコミュニティ周辺を守っていたのだけれど、その自警団がたまたま通りかかった薬の行商人一行をデマを信じて殺害したのです。

 

事件が起きたのは千葉県東葛飾郡福田村、今の野田市。殺された一行は香川からやって来た行商人の一行で、群馬を回った後、利根川を渡り、茨城に行く為、福田村を訪れたところを奇禍にあったのです。

川を渡る前に神社の近くで休憩を取っていた行商人一行の交わす言葉が、聞き慣れない香川弁であった為、デマで気が立っていた人々の間で

「見慣れぬ人間が集まっている」「使っている言葉が変」「朝鮮人じゃないか?」

 とパッと話が広がり、行商人の一行は殺気だった自警団に取り囲まれてしまったのです。話を聞いてやって来た村長や村の駐在さんが行商人一行に事情を聞いて

「この人達は日本人だ」

 と言っても、行商人一行を取り囲んでいた人達は納得しない。そこで自警団の人々を納得させるために駐在さんが本署に問い合わせしに行っている間に事件はおきたのですね。

 当時、電話があるのは限られた場所だけでしたから、本署に事情を確認しに行く為には駐在さんは、その場所を離れなければならなかったのです。

 駐在さんが本署の警察部長と一緒に戻ってきた時は、妊婦や幼児を含む9名(殺された1人が妊婦だったので犠牲者を10名と数える場合もある)が殺害され、残りの6人も縛り上げられ川に投げ込まれる直前でした。

警察部長の説得で、どうにかこの6人だけは助かったのです。

 

 鶴見でもデマを信じた人達の「朝鮮人を殺せ」に対して「この人達はそんなことをしない」と自警団の要求から中国人や朝鮮人を守り切った警察署長がいましたね。

 それで助かった人の子孫が「曾祖父さんの命の恩人」とその署長さんのことを語っていた記事を読んだことがありますが、その時「非常時にデマに惑わされる人とされない人の違いはどこにあるのだろう?」と思った覚えがありますね。

 関東大震災の後のデマ、実はデマを信じた人々によって日本人も結構殺されているのですよね。数年前の大河ドラマでも地方出身の主人公が震災の後、「方言を話すから」と自警団に取り囲まれる場面がありましたっけ。

 

 福田村事件、加害者達は逮捕されたのだけど

「郷土を朝鮮人から守った俺は憂国の志士であり、その結果誤って殺したのだ」

 という加害者側の主張は、ほぼ通ってしまうのですよね。一応加害者達は、3年から10年の実刑判決を受けたのだけど、判決から2年5ヶ月後、昭和天皇即位の恩赦で全員釈放されていますもの。

 これ近隣の住人が加害者達の為に弁護団をつけようと寄付を募ったことに加え、殺された被害者側が被差別部落の人だったということも大きいのでしょうね。

 香川から関東まで行商に出向いたのは、香川では就職差別もあったり、自分達を養えるほどの田や畑がなかったりで遠く離れた場所まで行商に出ないと生活出来なかったからです。

 この事件、「デマに怯えた人達が朝鮮人と間違えて殺した」ということになっていますが、殺された人達に教育勅語を唱えさせたりしてるので「実は日本人だと気づいていたんじゃない?」説もありまして。

 貧しい行商人に対する差別意識、「汚い格好した怪しい余所者。だったらやっちまえ」で殺した可能性もあると指摘されてますね。

 この事件、ずっと知られないままでいたのですが、1980年代から現地調査が進められて、80年代後半には報道でも取り上げられるようになりました。

 やっぱり本当にヤバい話は歴史にならないと表に出にくいのですよね。現地調査を始めた当初も、もの凄く嫌がられたそうだし。関係者が生きている間は口を閉ざしたままの人は多そう。

 直接、逮捕されたのは8名だけだけど、自警団として集まった人間は200名はいたわけだし。地元では口にするのを憚られる話になっていたので、地元民でもこの件に関わってなかった人は、こういう事件があったことを全く知らなかったそうですね。

 関係者全員が鬼籍に入って、ようやくこの話は表に出しやすくなったのでしょうね。その代わり「何故、こういうことが起きたのか?」の調査も難しくなりましたけどね。

 この事件、森達也さんが劇映画にされるそうですね。森さんがドキュメンタリー以外を撮るのは初めてじゃないかなあ。インタビューで

「被害者視点でなく、加害者視点で撮りたい」

 と語っていましたね。まあ、森さんが撮るなら加害者視点でしょうね。「良き夫、良き父、善良な市民 そういった『普通の人達』が、何故ああいうことをしたのか?それを知りたい」という視点で撮っている作品が多いから。

 福田村事件の加害者の1人は、後に隣接する田村村の村長になってまして。さらに柏市の市議にもなっているのですよね。市議になる程度には人望のある郷土を愛する良き市民であったわけです。

 そういう人達が幼児も許さず殺した。人は不安や恐怖に駆られるとどんなことでも出来る。

 福田村事件が起こってからちょうど100年後の2023年に公開される予定の映画は、一体どういう映画になるのでしょうね?