火曜日の思索メモ

思ったこと、考えたことの記録です。

保育技術が継承されなかった結果起こること

 裾野市の保育園での虐待の件で、これに限らず技術が継承されなかったことによる弊害がこれからどんどん顕在化していくのだろうな、と思ったりしてます。

 確か「ルポ保育崩壊」じゃなかったかなと思うのですが(保育の規制緩和で何が起こっているのか?という現場からの警鐘ルポは複数の人が出しているので、どの本に書かれていたのかがうろ覚え)、保育を市場化したがったことによる弊害の一つとして「保育技術の断絶」が挙げられているのですよね。

 公立の保育園を民営化した時、それまでの職員は保育サービス会社にスライドして雇用されることになったけれど、人件費の高いベテランというのはサービス会社にとっては有り難い存在ではなく、またベテランの側も園児のケアより経営を優先するやり方についていけなかったり、以前とは違う労働条件で働くことを強いられ体力的に保たなかったりで、辞めていく人が続き、経験の浅い若手が残る。

 経営する側からすれば、若手の方が人件費が安いし、体力もあるのでベテランが辞めていっても問題だとは考えない。むしろ人件費が高くなる前に人が入れ替わってくれた方が経営的に効率が良いと考える。

 国の方針も子供を預ける場所を増やすことを優先して、質の確保よりも量の確保が優先だから、学校を卒後して2〜3年で責任者という保育園が増える。

 保育の規制緩和前の、若手、中堅、ベテランという人員構成が崩れて、以前なら若手に分類されていた経験の浅いものが管理職となる。

保育について悩んでいる時に、ベテランに相談したり、ベテランの子供達への接し方を見て、保育の技を学んだりという技術継承をされない人が増える。

 経験の浅いうちに我流の間違ったやり方を身につけてしまい、自分には保育士としての真っ当な技術が身についていないという自覚のないまま年数を重ね、チームリーダーとなる。

 間違った知識のまま、新しく入ってきた人に「これが子供達に接する時に良いやり方」と我流のやり方を伝える。

 大体こんな感じで保育園での事故や虐待が増えている理由を説明出来てしまうのではないですかねえ。国も保育士の促成栽培を推進しているし。

 保育や介護、畑違いの分野だけど農業などもそうかな。その道のプロの技の凄さを知らない人ほど、その人達の持っている技術の凄さを軽視して「そんなことは、少し学ばせれば素人だって出来る」と軽く判断していそう。

 裾野市の保育園で虐待の対象となったのが一歳児と聞いて「ああ」と思いまっした。保育は、より小さい子を相手にする方が人手も技術もいるのですよね。だから一歳児保育は、保育者の側により余裕が必要となるし、より保育士の能力や技術が試される。

 上手く回っている時は、正しい技が身についていない人でも何とかなったけれど、上手く回っていない時ほど、その人にどれだけきちんとした技術が身についているかが試される。

 これは保育に限った話ではないですが、上手くいかない時ほど、それまでに自分が学んできたことが出る。「自分が経験したことがない困ったこと」にどれだけ対処出来るかで、それまでの学びが出てしまう。

 コロナ禍が始まってから、医療は勿論だけど、保育も介護も今まで経験したことのないことへの対処をしなければならなくなってきているのだから、負担はもの凄く増えているのですよね。

 正直、イラッとすることも増えているでしょうし、こんなこと投げ出したい!と思うことだって珍しくはないでしょう。そこで踏み止まれるか、踏み止まれなくて一線をしまうかに、プロとしての力の差が出てしまうのかなあ。

 技術継承がきちんとされない状態が続くと困ったことに「ベテランのやることよりも経験の浅い新人の方が正しい」という逆転現象も起こりますしねえ。

 間違ったやり方を身につけたベテランよりも、学校で学んだことを現場で活かして実践しようとする新人の方がおかしなやり方をしていることに気づきやすいですしねえ。

 裾野市の保育園の件、内部告発しようとした保育士の訴えを園長が握り潰そ雨としたという話もあるけれど、これも人手の足りない職場あるあるで、余裕のない状態で現場が仕事を回していると問題行動を起こす保育士がいると分かっていても保育園の管理職がそれに対処しないことがあることは前から指摘されているのですよね。(まあ、これは保育や介護や介護だけでなく、どの現場でも起こることかもしれませんが)

 他の職員からの訴えで、その職員の行動が問題があると分かっていても、その職員がいなくなると現場の仕事が回らなくなり業務に支障が出るから見て見ぬふりをする。

 保育についての知識や経験がなく現場の実態が把握できない経営層より、問題行動を起こす現場のベテランの方が力関係で強い。

 裾野市の保育園の話ばかりがクローズアップされているけれど、同時期に富山でも保育園での園児虐待で保育士が書類送検されているのですよね。www3.nhk.or.jp 

 保育の質や、保育士の労務環境を二の次にしてきたツケがどんどん顕在化敷いているから全国的にこういう話は増えていくでしょうね。

正しく保育技術が身についている人ばかりではないですし、正しい保育技術が身についている人が体力的に保たないから続けられないからと辞めていく労務環境がどこまで改善されたのかは疑問ですもの。

 保育士の低待遇も問題だけど、世界的に見ても保育士は高給職ではないのですよね。構造的に利益が上げにくい職種なので、保育職が働きやすいと言われる北欧でも保育士の給料は高い方ではないし。

 ただ北欧は「利益は上げにくいけど、社会にとって必要な職業は公務員」の通例に従って、保育職や介護職は公務員や準公務員扱いにして「給料は高くないけれど、休みは取りやすく、安定して働ける働きやすい職場」という労務環境を提供をしているのですよね。

 子育て世代の保育職にとっては、「自分の子供が急な発熱の為、休みを取りたい時何の問題もなく休みを取れる職場」というのは魅力的でしょうねえ。

 そりゃ給料は高いにこしたことはないけど、「給料よりも子育てと両立して無理なく働き続けられる労務環境の方が大事」「自分が納得できる仕事を出来る方が大事」という人達はおりますし、保育士や介護士を志す人って優しい人が多いからそういう人達の割合が結構多いのじゃないですかねえ。

 そういう人達が現実に疲れ切って職場を去る例が相次いでおりますが、保育や介護を市場化すれば上手くいくと嘯いて、株価だけ見て「これからの成長産業」と、持ち上げた人達は、そんな光景は目に入っていないのでしょうね。

 そうして自分の見たいものしか見てこなかった人達の行動のツケを、自分にされたことを訴える力のない子供達が支払うことになりますね。