火曜日の思索メモ

思ったこと、考えたことの記録です。

食糧危機に対する意識の差

ロシアとウクライナの戦争で欧州の防衛意識に変化が出ているというニュースをTVが流していまして。

先日の「食糧なら海外から輸入するからOK」のFPさんの発言を思い出して、やっぱり日本は国防という点で、陸続きの欧州とは危機意識が違うのかしら?と思いました。

もっとも農業学者は、この戦争が日本の食糧事情にどう影響するのか、すぐに分かって「ヤバい」と反応してるから、盲蛇に怖けずなのかもしれませんが。

それにしても「『国産』の農産物を作るために必要なものは肥料、飼料、エネルギー、全て輸入」という現状を見ても、片方は食糧危機を警戒し、片方は海外から食糧を輸入するから問題ない、と考えているところが対象的ですね。

日本が、海外で買い負けているという事実は随分前から言われているのに、「海外から輸入するから問題ない」ですか。

FPというのは、先を見据えて手を打つ職業じゃなかったのですかねえ。

どうも補給を軽視して、インパールで兵に地獄を見せた旧日本軍の遺伝子は、今でも日本のあちらこちらで生きているみたい。

 

まあ戦中戦後の食糧難を両親や祖父母から話を聞いた世代も少数派の時代ですから仕方ないのかな。

食糧難は、太平洋戦争中より海外からの食糧調達が出来なくなった戦後の方が深刻だったというには有名な話なのですが。

(植民地が失われたことで、植民地からの食糧調達が出来なくなったことに加え、海外から引き揚げて来た人々で国内の食い扶持が増えたので。

だから自然派の人達がよく口にする「日本の食生活を変えようとしたアメリカの陰謀」であるアメリカからの食糧輸入は、困窮した日本の食糧事情を改善するのには役立っているのですよね。

たとえそれが過剰生産したアメリカの農産物の消費先として当時の日本がうってつけであったとしても、飢え死によりはましですもの)

 

食糧を持っている国が強い、というのは「飢え」を実感した世代にはリアルで実感出来るようで。従軍経験のある方から戦後の思い出として、PXで食べたアイスクリームの思い出を伺ったことがありますね。

今でも基地解放デーに米軍基地を訪れると日本の売店との違いにワクワクしたりするのですが、占領下の日本ではもう別物。日本人全体が飢えている時に、アメリカに関係するところには飢えがない。

「PXは、日本人は入れないんだよ。でも僕が勤めていたところが米軍と仕事をするからといって、特別に打ち合わせの為に切符を貰ったの。それでPXでアイスクリームを食べたのだけど、世の中には、こんな美味しいものがあるかと思ったね。

 あれを食べた時、僕は『ああ、アメリカには負けたあ。こんな美味しいものを食べる国に勝てるわけがない』そう思ったの。理屈じゃないね、あれは。もう納得するしかないんだもの」

 美味しいものが持つ力というのは強力なんですよね。ドウス昌代さんの「ブリエラの解放者たち」で、日系人部隊によってドイツ軍の占領から解放された思い出を語るフランス人女性が、自分達を見つめる子供に気づいた日系人兵士からチョコレートつきのパンを貰った思い出を

「美味しかったわ。こんな美味しいものがこの世にはあるのかと思った」

 と涙ぐみながら語ってますものね。(まあ、これは友軍のおかげで占領から解放された!という思い出もあいまっての嬉しさでしょうが)

まあ、農業関係者が「肥料、飼料、エネルギー、全て輸入」という我が国の現状と、昨今の海外情勢の変化から、食糧危機を警戒するのは、頭で考えるFPさんと違って

「肥料も飼料も国際情勢の変化により、日本に回ってこなくなる」

と、いうことが簡単に起こることを経験で理解しているからでしょうね。

 日本より高く買ってくれるところがあれば、簡単に日本の分はそっちに回りますからね。

(この辺り、現役農家はかなりシビアに見てるのだろうなあ、と思ったのが荒川弘さんの「百姓貴族」ね。あの中で、日本の食糧難の解決の為に火星に入植して農業成功!というネタをやっていまして。

「良かったですね!これで火星でできた作物は日本に優先的に出荷されるのですね!」

 と喜ぶ編集さんに、荒川さんが

「高く買ってくれるところに売ります!」

 と、ばっさり断言して。

「日本に優先的に売ってくれるんじゃないんですか⁉︎」

 と驚く編集さんに

「高く買ってくれるところに売ります!商売なら当たり前です!」

 と、高笑いしていまして。まあ、ギャグとして話を盛っているのだろうけど、農業を巡る現実が想像出来ますよねえ)

 

 酪農家は、70年代に既に「日本に売ってくれるんじゃないんですか⁉︎」「高く買ってくれるところに売ります!」を経験済みだから、それを見ていた農業関係者も警戒するのでしょうね。

(70年代、アメリカから輸入される筈だった飼料が日本ではなく、ソ連にまわされた思い出が、自然放牧の酪農を目指した一因だと中洞牧場の牧場長が語っていますしね)

 友好国ならまだしも融通してくれるけど、調達先がほぼ中国の肥料もあるしなあ。

 商社は、調達にかなりの交渉力を必要としそう。

 それを考えると冷戦のさ中、日本に回す筈だったアメリカの飼料を自国に輸入させた旧ソ連の交渉力は凄いねえ。相当お金を積んだのでしょうね。